個別注記表とは、重要な会計方針に関する注記、貸借対照表に関する注記、損益計算書に関する注記など、従来の各計算書類に記載されていた注記を1つの書面として一覧表示する計算書類です。
 なお、必ず「注記表」という1つの書面として作成しなければならないということではなく、従来どおり貸借対照表等の各計算書類の注記事項として記載することも認められています。

個別注記表の役割

 例えば、収入の計上時期や棚卸資産の評価方法を変更したりすると、会社の利益は変動します。
 つまり、売上高や仕入高の事実に変動がなくても会計方針を変更することによって、利益が変動する可能性があり、こういった変更を開示しなければ、各計算書類を見る者に誤解を与えるおそれがあります。
 そのため、会社法の施行により、会計方針を変更した場合などは、個別注記表にそれを記載しなければならないものとされました。
 したがって、個別注記表は、各計算書類を見る第三者に対して、会社の財産・損益の状態を正確に判断できるようにする役割があるといえるでしょう。

個別注記表の作成義務

 個別注記表は、2006年の会社法施行に伴い新たに設定された計算書類ですが、会社法(第435条)と会社計算規則(第59条)によって、貸借対照表や損益計算書などの計算書類と同様に作成することが義務付けられています。

税務署への提出義務

 法人税法施行規則の第35条では、確定申告書の添付書類として、主に「貸借対照表及び損益計算書」、「株主資本等変動計算書」、「勘定科目内訳明細書」、「法人事業概況説明書」が明記されています。したがって、条文に明記されていない「個別注記表」は提出する義務はないと解釈することができます。また、現在のところ、個別注記表を作成していなくても罰則が課せられることもありません。
 しかし、金融機関から融資を受ける際に決算書の提出を求められた場合、また、許認可などを受けるために決算書の提出を求められた場合などで、個別注記表が付いていないことが会社法を遵守していないと見做されて支障を来す可能性があります。

個別注記表の記載内容

 企業会計原則に「企業会計は、財務諸表によって、利害関係者に対し必要な会計事実を明瞭に表示し、企業の状況に関する判断を誤らせないようにしなければならない」という〝明瞭性の原則〟があります。
 したがって、この原則に従えば、特に重要な事項を個別注記表に記載し、補足的に表示することが求められていることになります。
 しかし、企業が各々で説明したいことを判断して記載するものではなく、記載すべき事項は「会社計算規則第98条」で19項目に分けられています。ただし、会計監査人非設置会社かつ非公開会社である場合は、多くの項目を省略できます(※『中小企業の会計34問34答』参照)。

※参考:該当条文

【会社法】

(計算書類等の作成及び保存)
第四百三十五条 株式会社は、法務省令で定めるところにより、その成立の日における貸借対照表を作成しなければならない。
2 株式会社は、法務省令で定めるところにより、各事業年度に係る計算書類(貸借対照表、損益計算書その他株式会社の財産及び損益の状況を示すために必要かつ適当なものとして法務省令で定めるものをいう。以下この章において同じ。)及び事業報告並びにこれらの附属明細書を作成しなければならない。

【会社計算規則】

(各事業年度に係る計算書類)
第五十九条 法第四百三十五条第二項に規定する法務省令で定めるものは、この編の規定に従い作成される株主資本等変動計算書及び個別注記表とする。

(注記表の区分)
第九十八条 注記表は、次に掲げる項目に区分して表示しなければならない。
一 継続企業の前提に関する注記
二 重要な会計方針に係る事項(連結注記表にあっては、連結計算書類の作成のための基本となる重要な事項及び連結の範囲又は持分法の適用の範囲の変更)に関する注記
三 会計方針の変更に関する注記
四 表示方法の変更に関する注記
四の二 会計上の見積りに関する注記
五 会計上の見積りの変更に関する注記
六 誤謬の訂正に関する注記
七 貸借対照表等に関する注記
八 損益計算書に関する注記
九 株主資本等変動計算書(連結注記表にあっては、連結株主資本等変動計算書)に関する注記
十 税効果会計に関する注記
十一 リースにより使用する固定資産に関する注記
十二 金融商品に関する注記
十三 賃貸等不動産に関する注記
十四 持分法損益等に関する注記
十五 関連当事者との取引に関する注記
十六 一株当たり情報に関する注記
十七 重要な後発事象に関する注記
十八 連結配当規制適用会社に関する注記
十八の二 収益認識に関する注記
十九 その他の注記
2 次の各号に掲げる注記表には、当該各号に定める項目を表示することを要しない。
一 会計監査人設置会社以外の株式会社(公開会社を除く。)の個別注記表 前項第一号、第四号の二、第五号、第七号、第八号及び第十号から第十八号までに掲げる項目
二 会計監査人設置会社以外の公開会社の個別注記表 前項第一号、第四号の二、第五号、第十四号及び第十八号に掲げる項目
三 会計監査人設置会社であって、法第四百四十四条第三項に規定するもの以外の株式会社の個別注記表 前項第十四号に掲げる項目
四 連結注記表 前項第八号、第十号、第十一号、第十四号、第十五号及び第十八号に掲げる項目
五 持分会社の個別注記表 前項第一号、第四号の二、第五号及び第七号から第十八号までに掲げる項目

【法人税法施行規則】

(確定申告書の添付書類)
第三十五条 法第七十四条第三項(確定申告)に規定する財務省令で定める書類は、次の各号に掲げるもの(当該各号に掲げるものが電磁的記録で作成され、又は当該各号に掲げるものの作成に代えて当該各号に掲げるものに記載すべき情報を記録した電磁的記録の作成がされている場合には、これらの電磁的記録に記録された情報の内容を記載した書類)とする。
一 当該事業年度の貸借対照表及び損益計算書
二 当該事業年度の株主資本等変動計算書若しくは社員資本等変動計算書又は損益金の処分表(これらの書類又は前号に掲げる書類に次に掲げる事項の記載がない場合には、その記載をした書類を含む。)
三 第一号に掲げるものに係る勘定科目内訳明細書
四 当該内国法人の事業等の概況に関する書類(当該内国法人との間に完全支配関係がある法人との関係を系統的に示した図を含む。)